Pi Networkは一貫して「トークンは無償マイニングであり販売していない」と主張してきたが、規制当局が証券か否かを判断する際のカギは「投資契約」の存在、すなわち金銭的投入、共同事業への期待、他者(運営側)の努力に依存した利益獲得の可否にある。Pi Networkのビジネスモデルや成長ストーリーは、これらの条件に合致すると解釈される余地が大きい。本件の進展は、米国裁判所が「ハウィーテスト」を新興暗号資産モデルへどう適用するかを観察する重要な指標となる。その結果によっては、業界全体がユーザーインセンティブやトークン分配設計をより慎重に行い、証券法リスク回避を迫られる可能性が高い。
Pi Coinニュース:Pi Networkが1,000万ドルの詐欺訴訟に突如直面、20億トークンの秘密裏売却疑惑が信頼危機を引き起こす
「スマホマイニング」コンセプトで知られ、膨大なユーザーベースを持つPi Networkは、その発展史上で最も厳しい試練に直面している。12月初旬、米カリフォルニア州北部地区連邦裁判所が、Pi Networkの親会社SocialChain Inc.およびその創業者らを被告とする集団訴訟を受理した。原告は総額1,000万ドルの損害賠償を請求している。訴訟では、プロジェクト側が数年にわたる詐欺計画を実行したとされ、ユーザーのトークンが無断で移転されたこと、20億枚にも及ぶPIトークンの秘密裏な売却、そして意図的なメインネット移行の遅延による資産価値の下落が挙げられている。Piコアチームは現時点で沈黙を保っているものの、コミュニティ内では訴訟で挙げられた主要データに対し強い疑義が提起されている。このニュースを受け、PIトークン価格は5%下落、テクニカル分析上は重要なサポート水準付近で推移し、今後の動向は不透明となっている。
1,000万ドル訴訟の嵐:核心となる指摘とコミュニティの反撃
1,000万ドル規模の連邦証券詐欺訴訟が、長らくPi Networkを覆ってきた疑念を具体的な法的文書へと変えた。裁判所記録によれば、原告ハロ・モーンは、Pi Networkおよび共同創業者の范成雕(Chengdiao Fan)、ニコラス・コカリス(Nicolas Kokkalis)が複雑な詐欺計画を立案・遂行し、自身の投資に大きな損害を与えたと主張している。
訴訟の核心指摘は三つの側面に集約されており、いずれもプロジェクトの信頼性の根幹を突いている。第一に、原告は自身のアカウントにあった5,137枚のPIトークンが2024年4月10日に無断で不明なアドレスに移転され、これはプロジェクト側による組織的な資産売却の一部だと主張。その規模は20億PIにも及ぶという。第二に、Pi Networkが残りの1,403枚のトークンのメインネット移行を意図的に遅延させ、トークンを価値下落の危険にさらしたとする。第三に、最も論争を呼んでいるのは、Pi Networkが「分散型ネットワーク」と謳っているにも関わらず、実際には3つの検証ノードしか稼動しておらず、プロジェクト側が中央集権的にネットワークを完全にコントロールしている点だ。
しかし、これらの指摘はPi Networkの巨大な「パイオニア」コミュニティ内で大きな波紋と強い反論を呼んだ。コミュニティメンバーたちは、原告が損失計算時に引用した価格データが著しく実態と異なると指摘。訴訟概要にはトークン価格が307.49ドルから1.67ドルに暴落したと記載されているが、PIトークンは今年2月のメインネット稼働後、最初に上場した主要取引所での初値は約2ドル、過去最高値も3ドル未満である。コミュニティでは307.49ドルという数字は非公式な「IOU(借用証書)」先物取引価格に由来すると広く考えられており、Piコアチームもこの種の取引は認めず、極めてリスクが高いと繰り返し警告してきた。無断移転に関しても、多くのユーザーはフィッシング攻撃や秘密鍵流出によるものと考えており、プロジェクト側の関与を否定している。
Pi Network訴訟事件・市場主要データ一覧
訴訟の主な情報:
市場とプロジェクトデータ:
テクニカル分岐点:訴訟の暗雲下で反発かゼロへ向かうか
法的論争を脇に置き、純粋な市場取引の観点から見れば、PIトークン価格は現在、極めて重要なテクニカルポイントにある。訴訟によるセンチメント悪化の前、PIのチャートは実際に2カ月にわたる「上昇三角形」パターンを形成しており、これは一般的に強気継続のチャートパターンとされる。現在の価格はこのパターンの下限サポートをテストしており、同時に0.5フィボナッチリトレースメントとも重なる強力なサポートポイントとなっている。
モメンタム指標を見ると、テクニカルな反発の兆しもある。相対力指数(RSI)は売られすぎ領域に近い水準から反発しており、これは調整局面で短期的な底打ちサインと解釈されることが多い。同時に指数平滑移動平均線(MACD)もシグナルラインへゆっくりと近付いており、「ゴールデンクロス」形成の兆しが見られる。これは通常、下落モメンタムの減速と上昇圧力の蓄積を示唆する。もしこの重要サポートが守られ、出来高の増加が伴えば、理論的には上昇三角形のターゲットである約0.40ドルへのブレイクが起こる可能性があり、現在価格から8%以上の上昇余地が見込まれる。
しかし、突然の1,000万ドル訴訟は、この微妙なテクニカルバランスに巨大なファンダメンタルズ要因を持ち込んだ。市場の恐怖と信頼喪失は、買い圧力を根本から弱め、テクニカルサポートを無効化する恐れが強い。もし現在のサポートゾーンを明確に割り込めば、次のターゲットはおよそ0.15ドルの歴史的安値となり、約30%の下落余地が生じる。さらに悲観的なシナリオでは、0.15ドルさえも割り込んだ場合、下方に強力な取引サポートが存在しないため、価格は急速に0.075ドル(1.618フィボナッチエクステンション)まで下落し、最大65%の下落となる可能性もある。テクニカル分析は強力なネガティブファンダメンタルズの前では、その有効性が大きく損なわれることが多い。
深まる信頼の亀裂:「非中央集権」ストーリーへの最大の試練
今回の訴訟は、その最終結果に関わらず、Pi Networkが長らく掲げてきた「一般人に分散型デジタル通貨を」という中核ストーリーに、厳しい精査の目を向けさせるきっかけとなった。「3つの検証ノードのみ稼働」という指摘が証拠で裏付けられれば、非中央集権を謳う同プロジェクトにとって致命的な打撃となる。ブロックチェーンの世界では、ノードの分散度がネットワークの検閲耐性や安全性を測る重要基準であり、ごく少数のノードコントロールは創業チームによる完全支配を意味し、ビットコインやイーサリアムのようなグローバルで数千・数万の独立ノードで維持されるネットワークとは本質的に異なる。
この信頼危機は、Pi Networkがエコシステムやアプリ開発を本格化させたいタイミングで発生した。プロジェクトは今年2月にメインネットを公開したが、ユーザーや開発者を惹き付ける「キラーアプリ」や明確なユースケースは今も不足している。その成長モデルも、ネットワークの実需ではなく、コミュニティメンバーの「クリックマイニング」やソーシャル拡散に大きく依存してきた。ここに法的リスクが加わったことで、もともと消極的だったサードパーティ開発者や事業パートナーがさらに距離を置く恐れがあり、エコシステム構築の停滞が深刻化しかねない。さらに日々続くトークンアンロック(1日平均610万枚)は、十分な買い需要がない状況下では売り圧力を増大させ、流動性危機の悪化要因ともなる。
規制リスクの潜在地雷:未登録証券指摘の波及効果
直接的な詐欺指摘に加え、今回特に業界全体に波及しうるのは、「PIトークンは未登録証券である」という原告の主張だ。これは米SEC規制の核心領域に直結しており、もし裁判所がこの見解を採用し、PIのトークン発行や販売行為を未登録証券の発行と認定した場合、Pi Networkは巨額の罰金や事業制限に直面するだけでなく、「事前マイニング」「エアドロップ報酬」「モバイルマイニング」など同類モデルを採用する全プロジェクトへの警鐘となる。
Pi Networkは一貫して「トークンは無償マイニングであり販売していない」と主張してきたが、規制当局が証券か否かを判断する際のカギは「投資契約」の存在、すなわち金銭的投入、共同事業への期待、他者(運営側)の努力に依存した利益獲得の可否にある。Pi Networkのビジネスモデルや成長ストーリーは、これらの条件に合致すると解釈される余地が大きい。本件の進展は、米国裁判所が「ハウィーテスト」を新興暗号資産モデルへどう適用するかを観察する重要な指標となる。その結果によっては、業界全体がユーザーインセンティブやトークン分配設計をより慎重に行い、証券法リスク回避を迫られる可能性が高い。