恐慌指数（VIX）：マーケットの感情を計る金融バロメーター

2008年10月、リーマンショック真っ只中にVIX恐慌指数は96.40の史上最高値を記録した。あの日々、市場は文字通り恐怖に凍りついていた。私がトレーダーとして初めて経験した本物の「金融恐慌」だ。スクリーンは真っ赤に染まり、誰もが明日がくるのかと疑問に思ったあの時間。

今や2025年9月、VIXはわずか15.87付近をさまよっている。なんとも平穏な数字だが、この「静けさ」を信じていいのだろうか？

VIXとは何か？本質を掘り下げる

シカゴ・オプション取引所（CBOE）が1993年に導入したVIX指数。S&P500指数オプションの今後30日間の予想変動率を示す指標だ。でも単なる数字ではない。これはマーケットの「心電図」だ。

多くのアナリストは「恐慌指数」と呼ぶが、私にとってVIXは「市場の本音」を示すものだ。数値が高ければ投資家の不安は高まり、低ければ満足感が広がっている。

市場状態の基準は簡単だ：

• 20以上：やや不安定
• 30以上：不安定
• 40以上：パニック状態が近い

歴史が教えてくれるもの

VIXが過去に急上昇した時期と値を振り返ると：

• 2008年10月（リーマンショック）：96.40
• 2020年3月（コロナパンデミック）：85.47
• 2015年8月（中国経済成長鈍化への懸念）：53.29
• 2018年2月（米国景気後退懸念）：50.30
• 1998年10月（ロシア債務危機とLTCM破綻）：49.53

これらの数字を見ると、今の15.87という値がどれだけ「楽観的」かがわかる。でも、それが本当に健全なのかは疑問だ。

最近のVIX動向：警戒すべき兆候？

2025年8月第1週、市場に久しぶりの「影」が現れた。VIX指数は数日で17.4から20.37へと21%急上昇し、8月1日には一時21.9に達した。表面的には大したことのない変動に見えるが、長期移動平均線（SMA50、SMA200）を突破し、過去数ヶ月の「安全圏」（14-19ポイント）から脱出したことは注目に値する。

私が心配するのは、この「小さな波」の下に潜む大きな流れだ。地政学的リスク、特に中東情勢の緊張がこの動きを後押ししている。イスラエルが2025年6月13日にイランの軍事・核施設を空爆し、イランが報復。その後6月22日、米国が「ミッドナイトハンマー作戦」でイランの核施設に精密攻撃を実施した。

これは単なる地域紛争じゃない。システミックリスクの再評価が始まっているんだ。

トレーダーとしての私の見方

VIXが語るストーリーを理解するには、数値の変化だけでなく、その背景も読み解く必要がある。現在のVIXが示す「落ち着き」は本物なのか、それとも嵐の前の静けさなのか？

面白いのは、今年初めにあるトレーダーが指摘した現象だ。2025年の米国株式市場の下落時に、VIXの反応が鈍かった。通常、株価の急落時には恐慌指数が跳ね上がるはずが、今回はそうならなかった。クレディ・スイスのデリバティブ部門責任者の分析によれば、多くの機関投資家が昨年末からリスク・エクスポージャーを減らし始め、その後のプット・オプションによるヘッジ需要が弱かったという。

これが意味するのは、市場がすでに「心の準備」をしていたということだ。そしてそれは、より大きな嵐が来ることを予感させる。

恐慌指数から学ぶこと

最終的に、VIXは市場の「本音」を教えてくれる。今の「落ち着き」は本物か、それとも集団的な自己欺瞞か？

私たちトレーダーとして大切なのは、VIXを単なる数字ではなく、市場の集合的な感情の表れとして見ることだ。そして常に疑問を持ち続けること：この静けさの下には、何が潜んでいるのか？

2008年のVIX 96.40を経験した者として言えるのは、市場が最も落ち着いているように見える時こそ、最も警戒すべき時だということだ。