7月8日、金融庁は人事異動を発表。更新された幹部名簿から「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」というポストが新設されたことが明らかになった。初代参事官には今泉宣親氏が就任した。同氏はこれまで、政策評価室長や市場企画室長などを歴任し、長年にわたり日本の金融行政改革や資産運用改革の中核を担ってきた人物だ。専門ポストの新設と、豊富な経験を有する今泉氏の起用から、Web3改革に向けた政府の「本気度」がうかがえる。業界からの関心が高まる中、CoinDesk JAPANは金融庁に取材を依頼。書面による回答および対面での取材の機会を得た。これは、今泉氏が新参事官としてメディアの取材に応じた初のケースとなる。## 新しいポストの目的とは**──どのような役割とミッションを持って「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」というポストが新設されたのか。また、ポストの名称にある「暗号資産」「ブロックチェーン」「イノベーション」という3つの言葉には、どのような意図があるのか。****今泉参事官**:これまで1人の課長級(フィンテック参事官)が、ブロックチェーン技術を用いた暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業や、資金移動業者、電子決済等代行業等のモニタリングから、AIやブロックチェーンを活用したフィンテック等のイノベーション促進に至る、広い範囲を担当していた。そこで今般、デジタル分野の体制強化を図る観点から、専担の審議官クラス(島崎参事官)を設けるとともに、その下に、①ブロックチェーン技術を用いた暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業のモニタリングとフィンテック等のイノベーション促進を担当する「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」②資金移動業者や電子決済等代行業者に加えてネット系銀行グループ等のモニタリングを担当する「資金決済参事官」を新設し、専担の審議官を支え、チームとしてデジタル分野の取組を強力に推進することとした。『暗号資産』『ブロックチェーン』『イノベーション』については、ブロックチェーン技術を核として、暗号資産やステーブルコインを巡ってグローバルにも動きが進む中で、国内でも規制の見直しが議論されている状況。暗号資産交換業者のモニタリングとイノベーション促進の双方を同じ参事官が担当していることは、規制監督とイノベーション、利用者保護の確保と利便性向上を両立させていく観点から有効ではないかと考えている。## 金商法への移行の意義**──現在、暗号資産規制を金商法へ移行する議論が本格化している。この重要な変革を進めるにあたり、最大の課題は何か。また、この移行が持つ最大の意義をどう考えているのか。****今泉参事官**:金商法の議論が進むことで、例えば機関投資家や個人の資産運用のポートフォリオの一部に、暗号資産がオルタナティブ投資の一環として組み入れられるケースが出てくることも考えられる。また、事業を行う際の資金調達手段として、IEOなど暗号資産のプレゼンスが従前よりも高まることも考えられる。こうした選択肢の拡大が大きな『意義』ではないか。他方、こうした動きが進めば、従来は『イノベーター』や『アーリーアダプター』が中心であった暗号資産取引の世界に、『マジョリティ』が参加するようになっていく。その際、利用者の安心・安全をどう確保していくかが、今後の最大の課題。例えば、国民のみなさんが資産形成してきた大切な財産が、暗号資産交換業者へのサイバー攻撃によって犯罪者達に奪われるようなことがあってはならない。暗号資産交換業者等を取り巻くセキュリティ強化等の課題に強力に取り組んでいくことが求められる。## 企業によるBTC購入、ステーブルコイン、米国の動き**──ビットコインを購入する企業が日本でも増えており、事業が事実上、ビットコイン投資メインになる事例も出てきている。そうした状況をどう見ているのか。****今泉参事官**:一般に、企業が投資や投機を目的に特定の資産を買うことについて規制はない。例えば、何か事業を展開していた企業が本業を縮小して、アパートなどの不動産を購入することも珍しくないだろう。そうした行為自体は、特に私たちが何か言うべきことはないと考えている。ただし、上場企業であれば開示義務や相応のコーポレートガバナンスの確保が求められる。こうした動きについても、株主との関係において、十分なコミュニケーションを取っていただくことに尽きると考えている。一方でそれとは別に東京証券取引所が「どういった企業を上場させたいのか」という観点で、一定の基準を持っており、こうした企業をどう評価するかは、東京証券取引所が判断することになるのだろう。****──ステーブルコインは、USDCの取り扱いが始まった。日本の事業者も発行を目指している。日本発ステーブルコインは今、どのような状況にあるのか。******今泉参事官**:個別の申請状況については控えるが、ステーブルコインに関心を持たれている事業者は多いようで、粒度はさまざまだが相談が寄せられている。今後ライセンスが取得されれば、ステーブルコインを発行する事業者、取り扱う事業者が出てくるだろう。現状、申請を行っている企業に対しては、信託銀行、資金移動業ともに個々の監督部署が担当しているが、私たちも横串で状況を把握している。**──米国ではジーニアス(GENIUS)法が成立し、次はクラリティ(CLARITY)法に焦点が移っている。クラリティ法では、暗号資産は米商品先物取引委員会(CFTC)管轄とされ、コモディティ(商品)として扱われる動きになりつつある。一方、日本では有価証券を規制する金商法での取り扱いについての議論が始まろうとしている。日米でスタンスが分かれつつあるのか。****今泉参事官**:クラリティ法もブロックチェーンの成熟度(※編集部注:特定のエンティティに依存せず、分散化が十分に進んでいるかどうか)を米証券取引委員会(SEC)が判断すると書かれている。具体的な取り扱いについては、今後煮詰まっていくだろうと見ている。金商法の議論もまさに今月末からワーキング・グループが立ち上がって議論を深めていくところだ。ワーキング・グループは企画市場局市場課が担当する。多くの論点があるので、相応の頻度で開催されるものと考えている。## 「イノベーション」に込められた思い**──最初の質問と重複するが、今回の新たなポストは「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」となっている。「イノベーション」という単語が含まれていることは非常に象徴的だと感じた。****今泉参事官**:実は、形式的な話と今後を見据えた話の2つの側面がある。まず、形式的な話からすると、イノベーションは必ずしもブロックチェーンや暗号資産のイノベーションに限定しているわけではない。AIも含め、広い意味でのイノベーションということになっており、今回新たに名取裕之さんが担当し、以前は牛田遼介さんが担当していた「イノベーション推進室」が私の所管に入っているので、それを表象して「イノベーション」という名前が入っている。今後を見据えた話としては、監督官庁として、暗号資産交換業者のモニタリングを行い、業界に対してはある種 “強面” の面がある一方で、金融庁全体としては、イノベーションを推進し、利用者にとって付加価値のあるものは後押ししていきたいと考えている。その意味で、規制監督的な色彩と「イノベーション」という単語を並べることにはそれなりに意味があると考えている。例えば、ステーブルコインは「ユースケースの創出が難しい」との議論もあるが、実際に運用が始まれば、その裏側では現行のさまざまな決済の仕組みとの連携・代替が行われることになるだろう。そうなれば、リテール決済だけでなく、企業間決済、金融機関間決済なども高度化の可能性があるのではないか。カストディアンが活用していけば、取り扱い量も増えていくかもしれない。ステーブルコインはディスラプティブなものだと考えているが、個人的にはまだ具体的な利用シーンが描けてはいない。仮に、現金払いのみだったところにクレジットカードが加わり、QRコード決済が登場して、便利になった。そこに新たなラインナップが加わっただけでは夢がない。新たな未来像を業界の皆さんと一緒に描いていきたい。**──最後に、日本のWeb3領域で挑戦を続ける起業家や開発者に向けて、新参事官として期待することやメッセージをいただきたい。****今泉参事官**:デジタル技術を用いたイノベーションは、金融分野を含めて、社会課題解決や生産性向上を大きく後押しするもの。世界的にも、金融商品だけでなく実物資産を含めて様々な資産がトークン化されるなど、あらゆるモノの取引が、従来の中央集権的なプラットフォームを通じた形から変化しようとしている。私たちの仕事は、社会全体がより良い方へ進んでいくための環境整備を行うこと。利用者保護の懸念など、イノベーションがもたらす影の部分をできる限り小さくする形で、光の部分が社会に大きな付加価値をもたらしていけるように環境を整えていく。私たちもこの社会全体のプレイヤーの一人として、日々チャレンジされる起業家や開発者のみなさんとともに、コミュニケーションを重ねていきながら、イノベーションを社会の進化に繋げる作業に関わっていきたい。Fintechサポートデスクを始めとして広く門戸は開いているので、ぜひ金融庁にもコンタクトしてほしい。〈金融庁に新設された「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」に就任した今泉宣親氏〉
金融庁、初代「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」の第一声入手【今泉参事官インタビュー】 | CoinDesk JAPAN(コインデスク・ジャパン)
7月8日、金融庁は人事異動を発表。更新された幹部名簿から「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」というポストが新設されたことが明らかになった。初代参事官には今泉宣親氏が就任した。
同氏はこれまで、政策評価室長や市場企画室長などを歴任し、長年にわたり日本の金融行政改革や資産運用改革の中核を担ってきた人物だ。
専門ポストの新設と、豊富な経験を有する今泉氏の起用から、Web3改革に向けた政府の「本気度」がうかがえる。
業界からの関心が高まる中、CoinDesk JAPANは金融庁に取材を依頼。書面による回答および対面での取材の機会を得た。これは、今泉氏が新参事官としてメディアの取材に応じた初のケースとなる。
新しいポストの目的とは
──どのような役割とミッションを持って「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」というポストが新設されたのか。また、ポストの名称にある「暗号資産」「ブロックチェーン」「イノベーション」という3つの言葉には、どのような意図があるのか。
今泉参事官:これまで1人の課長級(フィンテック参事官)が、ブロックチェーン技術を用いた暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業や、資金移動業者、電子決済等代行業等のモニタリングから、AIやブロックチェーンを活用したフィンテック等のイノベーション促進に至る、広い範囲を担当していた。
そこで今般、デジタル分野の体制強化を図る観点から、専担の審議官クラス(島崎参事官)を設けるとともに、その下に、
①ブロックチェーン技術を用いた暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業のモニタリングとフィンテック等のイノベーション促進を担当する「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」
②資金移動業者や電子決済等代行業者に加えてネット系銀行グループ等のモニタリングを担当する「資金決済参事官」
を新設し、専担の審議官を支え、チームとしてデジタル分野の取組を強力に推進することとした。
『暗号資産』『ブロックチェーン』『イノベーション』については、ブロックチェーン技術を核として、暗号資産やステーブルコインを巡ってグローバルにも動きが進む中で、国内でも規制の見直しが議論されている状況。
暗号資産交換業者のモニタリングとイノベーション促進の双方を同じ参事官が担当していることは、規制監督とイノベーション、利用者保護の確保と利便性向上を両立させていく観点から有効ではないかと考えている。
金商法への移行の意義
今泉参事官:金商法の議論が進むことで、例えば機関投資家や個人の資産運用のポートフォリオの一部に、暗号資産がオルタナティブ投資の一環として組み入れられるケースが出てくることも考えられる。
また、事業を行う際の資金調達手段として、IEOなど暗号資産のプレゼンスが従前よりも高まることも考えられる。こうした選択肢の拡大が大きな『意義』ではないか。
他方、こうした動きが進めば、従来は『イノベーター』や『アーリーアダプター』が中心であった暗号資産取引の世界に、『マジョリティ』が参加するようになっていく。
その際、利用者の安心・安全をどう確保していくかが、今後の最大の課題。例えば、国民のみなさんが資産形成してきた大切な財産が、暗号資産交換業者へのサイバー攻撃によって犯罪者達に奪われるようなことがあってはならない。暗号資産交換業者等を取り巻くセキュリティ強化等の課題に強力に取り組んでいくことが求められる。
企業によるBTC購入、ステーブルコイン、米国の動き
今泉参事官:一般に、企業が投資や投機を目的に特定の資産を買うことについて規制はない。例えば、何か事業を展開していた企業が本業を縮小して、アパートなどの不動産を購入することも珍しくないだろう。そうした行為自体は、特に私たちが何か言うべきことはないと考えている。
ただし、上場企業であれば開示義務や相応のコーポレートガバナンスの確保が求められる。こうした動きについても、株主との関係において、十分なコミュニケーションを取っていただくことに尽きると考えている。
一方でそれとは別に東京証券取引所が「どういった企業を上場させたいのか」という観点で、一定の基準を持っており、こうした企業をどう評価するかは、東京証券取引所が判断することになるのだろう。
──ステーブルコインは、USDCの取り扱いが始まった。日本の事業者も発行を目指している。日本発ステーブルコインは今、どのような状況にあるのか。
今泉参事官:個別の申請状況については控えるが、ステーブルコインに関心を持たれている事業者は多いようで、粒度はさまざまだが相談が寄せられている。今後ライセンスが取得されれば、ステーブルコインを発行する事業者、取り扱う事業者が出てくるだろう。現状、申請を行っている企業に対しては、信託銀行、資金移動業ともに個々の監督部署が担当しているが、私たちも横串で状況を把握している。
──米国ではジーニアス(GENIUS)法が成立し、次はクラリティ(CLARITY)法に焦点が移っている。クラリティ法では、暗号資産は米商品先物取引委員会(CFTC)管轄とされ、コモディティ(商品)として扱われる動きになりつつある。一方、日本では有価証券を規制する金商法での取り扱いについての議論が始まろうとしている。日米でスタンスが分かれつつあるのか。
今泉参事官:クラリティ法もブロックチェーンの成熟度(※編集部注:特定のエンティティに依存せず、分散化が十分に進んでいるかどうか)を米証券取引委員会(SEC)が判断すると書かれている。具体的な取り扱いについては、今後煮詰まっていくだろうと見ている。
金商法の議論もまさに今月末からワーキング・グループが立ち上がって議論を深めていくところだ。ワーキング・グループは企画市場局市場課が担当する。多くの論点があるので、相応の頻度で開催されるものと考えている。
「イノベーション」に込められた思い
──最初の質問と重複するが、今回の新たなポストは「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官」となっている。「イノベーション」という単語が含まれていることは非常に象徴的だと感じた。
今泉参事官:実は、形式的な話と今後を見据えた話の2つの側面がある。まず、形式的な話からすると、イノベーションは必ずしもブロックチェーンや暗号資産のイノベーションに限定しているわけではない。AIも含め、広い意味でのイノベーションということになっており、今回新たに名取裕之さんが担当し、以前は牛田遼介さんが担当していた「イノベーション推進室」が私の所管に入っているので、それを表象して「イノベーション」という名前が入っている。
今後を見据えた話としては、監督官庁として、暗号資産交換業者のモニタリングを行い、業界に対してはある種 “強面” の面がある一方で、金融庁全体としては、イノベーションを推進し、利用者にとって付加価値のあるものは後押ししていきたいと考えている。その意味で、規制監督的な色彩と「イノベーション」という単語を並べることにはそれなりに意味があると考えている。
例えば、ステーブルコインは「ユースケースの創出が難しい」との議論もあるが、実際に運用が始まれば、その裏側では現行のさまざまな決済の仕組みとの連携・代替が行われることになるだろう。そうなれば、リテール決済だけでなく、企業間決済、金融機関間決済なども高度化の可能性があるのではないか。カストディアンが活用していけば、取り扱い量も増えていくかもしれない。
ステーブルコインはディスラプティブなものだと考えているが、個人的にはまだ具体的な利用シーンが描けてはいない。仮に、現金払いのみだったところにクレジットカードが加わり、QRコード決済が登場して、便利になった。そこに新たなラインナップが加わっただけでは夢がない。新たな未来像を業界の皆さんと一緒に描いていきたい。
──最後に、日本のWeb3領域で挑戦を続ける起業家や開発者に向けて、新参事官として期待することやメッセージをいただきたい。
今泉参事官:デジタル技術を用いたイノベーションは、金融分野を含めて、社会課題解決や生産性向上を大きく後押しするもの。世界的にも、金融商品だけでなく実物資産を含めて様々な資産がトークン化されるなど、あらゆるモノの取引が、従来の中央集権的なプラットフォームを通じた形から変化しようとしている。
私たちの仕事は、社会全体がより良い方へ進んでいくための環境整備を行うこと。利用者保護の懸念など、イノベーションがもたらす影の部分をできる限り小さくする形で、光の部分が社会に大きな付加価値をもたらしていけるように環境を整えていく。
私たちもこの社会全体のプレイヤーの一人として、日々チャレンジされる起業家や開発者のみなさんとともに、コミュニケーションを重ねていきながら、イノベーションを社会の進化に繋げる作業に関わっていきたい。
Fintechサポートデスクを始めとして広く門戸は開いているので、ぜひ金融庁にもコンタクトしてほしい。