資本がコンプライアンスを推進しているのか――Polymarketが直面するグローバル規制上のジレンマと、その生存戦略を徹底解説

8/14/2025, 10:03:04 AM
本記事は、Polymarketがアメリカ、ヨーロッパ、シンガポールで直面する規制上の課題を詳細に分析し、同社が資本管理と戦略転換を通じて規制遵守への移行をどのように実現しているかを明らかにします。

元記事再掲載:「Web3コンプライアンス研究 | 資本主導型コンプライアンス?Polymarketのグローバル規制課題と生存戦略への洞察」

従来の米国世論調査機関は、人工知能ではなくWeb3型予測市場に取って代わられるとは予想していませんでした。2024年大統領選挙では、世論調査が一貫してハリスの圧倒的リードを示していたものの、Polymarket上の予測は大きく異なり、トランプ勝利のオッズが常にハリスを大きく上回っていました。最終的にトランプがハリスに大差で勝利し、Polymarketの予測が的中。これにより同プラットフォームは一気に世間の注目を集めました。

Polymarketが急速に台頭する一方で、継続的なコンプライアンス問題と規制当局からの圧力が成長の最大の障壁となっています。世界各地で厳しい規制監督に直面する中、Polymarketは独自のコンプライアンス方針を策定しました。本記事は、Polymarketの規制環境やコンプライアンスリスク、対応策をWeb3および国際規制の専門家視点で深掘りし、Web3起業家・開発チームに向けて有用な知見を提供します。


(米大統領選で予測市場として躍進したPolymarketをCNNが報道)

1 Polymarketとは

Polymarketは2020年創設のWeb3次世代予測市場で、ブロックチェーン技術を基盤とし透明性と分散性を追求しています。ローンチ以降、予測市場分野で急速にトップポジションを確立しました。世界の政治・金融市場・スポーツ・文化事象など広範なテーマを扱うことで、多くのユーザーを魅了している一方、各国規制区分の複雑化という課題も抱えます。Polymarketでは、ユーザーが特定イベントの結果を示すトークンを購入することで予測に参加します。トークンは$0~$1で取引され、価格がイベント実現確率に対する市場の評価をリアルタイムで反映します。

Polymarketの最大の特徴は、抽象的な予測を価格付きのデジタル資産へ転換し、取引・収益化可能な仕組みを実現した点です。知見を直接収益化できるため、例として2024年選挙では「トランプ勝利」トークンが$0.30から$0.92へと上昇し、結果確定時に$1.00で決済となりました。価格変動は世論の流れを的確に捉えており、予測成功者に大きなリターンをもたらしました。

Polymarketの急成長は、大手ベンチャー投資家の注目も集めています。累計調達額は7,000万ドル超に達し、Ethereum共同創業者Vitalik Buterin氏やPeter Thiel氏率いるFounders Fundも投資に参画しています。

2 Polymarketのグローバル規制課題:現状

2.1 米国:バイナリーオプション区分とCFTC和解

Polymarketの米国初期コンプライアンス対応は、商品先物取引委員会(CFTC)が主導する厳しい措置から始まりました。2022年1月、CFTCはPolymarketに対し140万ドルの罰金と業務停止命令を出し、商品取引法(Commodity Exchange Act)下でPolymarketのイベント契約を規制対象と判断しました。この法律はCFTCに先物・オプション・スワップ取引市場の監督権限を与えます。

選挙や経済指標などへの賭けが可能な仕組みは、CFTCが通常バイナリーオプションやスワップと認定し、独占的なデリバティブ管轄に置かれます。CFTCはPolymarketのイベント契約を金融デリバティブと見なし、未登録デリバティブ取引所の運営と認定。法律に基づき必要なスワップ執行施設(SEF)または指定契約市場(DCM)への登録を怠ったと指摘しました。


(Commodity Exchange Act 第1a(10)項 コモディティ・プール定義)

Polymarketのような予測市場は、連邦・州規制当局の管轄争いという課題も抱えます。CFTCは法律に基づき連邦独占権を主張しつつ、一部州ギャンブル規制当局は予測市場を違法賭博と見なして訴訟します。2025年3月27日、ニュージャージー州ゲーミング執行局は競合Kalshiに無認可スポーツベット提供で停止命令を発出。

Kalshiは州当局と法廷闘争に入り、連邦地裁Edward Kiel判事はKalshiのスポーツイベントをCFTC管轄と認定、州規制当局に介入停止命令を出しましたが、連邦・州対立は依然未解決です。この種の管轄権争いは米国予測市場規制の不確実性を拡大させています。

Polymarketのようなサービスは、連邦規制をクリアしても州法による法的リスクや訴訟に直面します。二層構造の規制体制がコンプライアンスコスト増大・全国展開の足かせとなっています。


(Edward Kiel判事によるKalshiへの仮差止命令)

(仮差止命令原文)

2.2 欧州:ギャンブル区分・ブラックリスト化

Polymarketは米国以外でも厳しい規制監督下にあります。EUではMarkets in Crypto-Assets(MiCA)規則により、暗号資産サービス事業者の基準が設定されていますが、予測市場について明確な規定がなく、加盟国が独自にギャンブル規制を適用できる状況です。暗号資産サービスの統一ライセンス制度があっても、予測市場は断片的な規制に直面します。

2024年11月~2025年1月にかけ、欧州の複数規制当局がPolymarketに措置を講じました。スイス賭博当局は2024年11月26日にPolymarket.comを現地賭博法違反でブラックリスト化、フランス国家賭博当局は「ゲーム商品」に関するコンプライアンス懸念から11月29日にジオブロック合意を発表。米大統領選に高額賭けをしたフランス人取引者の存在で規制の目がさらに強まりました。2025年1月8日にはポーランド財務省が違法賭博サービス提供でPolymarketをブロックしました。

まとめると、欧州規制当局は予測市場をギャンブルとして慎重に扱い、現地法で厳しい制限を課す傾向が強いといえます。

2.3 シンガポール:二重規制違反

シンガポールではPayment Services ActとGambling Control Act 2022の両面規制で、金融的・社会的リスクの両方からPolymarketへの対応がなされています。金融管理庁(MAS)は、Payment Services Actによりデジタル決済トークンサービス事業者を厳格に規制し、Polymarketについて未認可かつAML/CFTリスク高、投資家保護・紛争解決体制も不十分と判断。

さらにGambling Regulatory AuthorityはGambling Control Act 2022下でPolymarketを違法ギャンブルサイトと区分し、アクセス遮断措置。オンラインギャンブル提供は政府認可プラットフォーム(Singapore Pools等)のみ認められており、Polymarketはデジタル決済トークンライセンス取得と厳格なギャンブル規制回避という二重障壁に直面しています。


(Polymarket遮断に伴い発出された公式通知)

このグローバルな比較から、予測市場の規制は金融監督とギャンブル監督の両分野で大きく二分されていることが分かります。米国CFTCは予測市場を商品取引法上のイベント契約と認め、情報発見やリスクヘッジの価値も評価しますが、CFTC登録、KYC/AML手続、強制報告など厳しいコンプライアンス要件が付されます。

一方、スイス、フランス、ポーランド、シンガポールなどは、Polymarketを違法ギャンブルと認定しアクセス遮断。投機抑止や社会的害防止、倫理リスク管理を重視し、ギャンブル・消費者保護の枠組みで厳しく規制します。

Polymarket最大の課題は、世界的な規制基準の不統一であり、各国ごとにカスタマイズしたコンプライアンス策定が不可欠です。その結果、事業運営の複雑さとコストが大幅に上昇します。規制当局は金融革新・消費者保護・公共倫理のバランスを慎重に模索しています。

3 境界を乗り越える:Polymarketのコンプライアンス戦略

3.1 米国:積極的なコンプライアンス対応と戦略的買収

PolymarketはCFTC執行措置に対し、透明性ある対応・積極的コミュニケーション・誠実な協力を通じ、比較的軽微な罰金で和解を成立させました。2022年1月の和解により同社はCFTC管轄下のバイナリーオプション取引を認め、140万ドルの罰金支払いに応じました。

和解条件で2022年以降米国顧客アクセス停止とIPジオブロック導入を実施。主要な予測取引業務もオフショアへ移転し、米国内リスク軽減を図りました。ただ、VPN利用による米国ユーザー規制回避も報告されており、ジオブロック対応の限界と市場の高い需要が浮き彫りとなりました。

米国市場再参入に向け、Polymarketは2022年5月CFTC元コミッショナーJ. Christopher Giancarlo氏をアドバイザリーボード会長に招聘。CFTC規制や市場インフラ分野の専門知見を活用し、米国金融業界に多い元規制当局者採用のコンプライアンス強化策を取りました。

2024年11月にはFBIがCEO Shayne Coplan氏のニューヨーク自宅を捜索し電子機器を押収(逮捕なし)。捜査はPolymarketがCFTC和解条件(VPN経由の米国ユーザー取引防止)を遵守しているかに着目しました。

トランプ政権発足と暗号資産推進政策により、Polymarketの米国規制環境は劇的に改善。2025年7月15日には司法省・CFTCが調査終了と追加訴追なしを発表し、長期の法的不透明性・リスクが解消しました。

直後の2025年7月21日、PolymarketはCFTC認可のデリバティブ取引所・清算機関であるQCEXを1億1,200万ドルで買収。CEO Shayne Coplan氏は、完全規制下の運営枠組み取得を事業転換点と評価しました。QCEXは2025年7月9日にDCMライセンスを取得し、Polymarketは僅か12日後に買収を完了。QCEXライセンス取得によりPolymarketは米国ユーザーへの合法サービス提供が可能となり、当面のコンプライアンス課題も解消されます。

ただし、Polymarketは米国規制突破の対価として大幅な運営方針転換を余儀なくされています。特にKYC/AML体制の強化は大きな変化です。Polymarketは元来「匿名・分散型」モデルを売りにKYC未実施で急成長しましたが、これが規制・市場操作リスクを招いていました。QCEX買収後はCFTC義務付けの厳格なKYC/AML手順導入が不可避です。

今後は顧客識別手続(CIP)、顧客デューデリジェンス(CDD)、強化デューデリジェンス(EDD)、継続的取引モニタリング、不審取引報告の実施が事業要件となります。分散型Web3市場から規制金融サービス型へと明確に転換し、今後も分散性とコンプライアンスの両立が経営上の課題となります。

3.2 米国以外:保守的対応と市場撤退

Polymarketは米国以外ではより保守的な戦略を選択。欧州やシンガポールでギャンブル区分・禁止措置に直面すると、フランスやシンガポールなどで自主的ジオブロックを実施し、市場争いをせず撤退しています。

4 Web3起業家への実践的教訓

Polymarketのコンプライアンス対応分析から、他のWeb3起業家・開発者が参考にすべき重要な教訓は下記の通りです:

  1. Web3分野は「フロンティア」から主流化へ急速に移行しつつあり、規模拡大・事業の成功にはコンプライアンス対応が不可欠です。
  2. Web3のコンプライアンス実現は自社方針のみではなく、政府の姿勢や規制強度に左右されます。Polymarketの米国復帰は政策転換・政権交代が直接的な要因です。
  3. Polymarket事例は資本力を使ったコンプライアンス推進モデルの典型。成長・規模拡大・資金調達を優先し、資本による買収等で事業基盤を合法化する手法は、単なるコンプライアンス戦略でなく商業戦略でもあります。
  4. Web3グローバル規制アービトラージの余地は急速に縮小し、業界全体でコンプライアンスコストが上昇。暗号資産分野の成熟で規制協働・抜け穴解消が進み、拡大優先・後回し型戦略は厳格な規制下では通用しづらくなっています。Web3起業家はコンプライアンスの重要性を十分理解し、今後は技術力・製品力だけでなく、規制対応力・資本力が競争要素となることを認識すべきです。

免責事項

  1. 本記事は[Web3 Compliance Research Group] の元記事「Web3コンプライアンス研究 | 資本主導型コンプライアンス?Polymarketのグローバル規制課題と生存戦略への洞察」を再掲載したものです。著作権は元著者[Guiruo Fei Lucius]に帰属。転載に関するご相談はGate Learn Teamまでご連絡ください。規定に従い対応いたします。
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